読書メモ

神野直彦(2024)『財政と民主主義:人間が信頼し合える社会へ』岩波新書.

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

『財政と民主主義』を読了。一番印象に残るのは、タイトルにもある通り、本書が「財政とは、経済システムと政治システムの綱引きの場」と捉えていること。政治システムが私的所有権や、「お金儲けしてよい領域」を規定し、財政が社会統合機能を持つ点など、再確認できた。

「帰属所得」やエッセンシャル・ワーカーの話は、「ケアをするのは誰か?」のケアの議論と直結する感じがした。日本は社会保障の「現物給付」が少なく、富裕層以外は、現役世代が家庭内で高齢者ケアせざるを得ない状況もある。「社会保険国家から社会サービス国家への転換」の必要性が指摘されていた。

本書後半では、日本が、租税負担率でみれば日本が極めて「小さな国家」であるという点(p.164.)について。その矛先は所得税制度に向かう。現状の制度だと、所得控除、税額控除、金融所得の分離課税などによって、結果として逆進的が強くなる。「1億円の壁」とも呼ばれるように富裕層に有利な制度設計になっている。結果として、日本の租税による所得再配分効果は、国際的に見て低い(p.177)。これを解決するに、本書は、所得の「質」の「差別化」を進めることを主張していた。ここら辺は、社会保険料との兼ね合いも含め、自分自身の税制度理解も深めたいところだと思った。

タイトル趣旨に戻ると、日本の財政政策は、社会の共同事業として保障しようとする政策展開が弱く(p.169)、財政を国民が被統治者コントロールできない(複雑すぎる)制度である点が印象に残った。スウェーデンが「する」社会、「参加社会」、日本は「観る」社会、「観客社会」という表現が秀逸だった。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

English

コメントを残す

*

CAPTCHA