読書メモ

井手英策(2017)『財政から読み解く日本社会―君たちの未来のためにー』岩波ジュニア新書.

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

財政とは何か?という問題を、日本社会の根幹にかかわる問題なのだということを、わかりやすく論じている本です。

目次は以下の通りです。

第1章  財政のレンズをとおして社会を透視しよう。
第2章  小さな政府はどのようにつくられたか。
第3章  成長しなければ不安になる社会
第4章  公共投資にたよった日本社会の限界
第5章  柔軟で厚みのある社会をささえる教育
第6章  税の痛みが大きな社会をつくりかえる
第7章  「君たち」が「君たちの次の世代」とつながるために

全体的に、歴史的な語りが多くあり、理解がしやすい印象を持ちました。
例えば、コミュニティができたときに、「互酬」「再分配」の機能を持った経済が産まれたという話からの、資本主義、近代国家の中で財政が産まれたという流れはわかりやすかったです。

みんなが必要とするもののために税金を負担し合う社会とは、だれかが困ったときのためにお金を出し合う社会、困った人の心配をする社会、いいかえれば、一人一人が喜びと痛みを分け合う社会だといえそうです。この意味でも、財政は、その国の人びとの意識やものの考え方をはっきりと映し出したものとなります。だから、財政は社会の姿を見定める格好の手段となるのです。

p.8.

本書を読みながら、日本の社会保障のわかりにくさは、やはり、社会保険と税制の制度がミックスされている点にあるように感じました。これは、どの社会保障政策にもほぼ共通するの問題だと思われます。

この現物給付を社会保障の仕組みで提供しようとしたとたん、話はややこしくなります。だれもが必要とするサービスのはずなのに、保険料をはらえない人たちがそのなかに入れないという問題が出てきてしまうからです。たとえば、小学校や中学校の義務教育は、税金を使ってサービスがもらえます。ですから、収入の多い、少ないとは関係なく、全ての子どもたちが教育という現物給付を受け取ることができます。ところが、社会保険の場合、働けない人、貧しい人は、保険料がはらえないでしょうから、社会保障に関する現物給付を受けることができなくなります。誰かに助けてもらわなければいけなくなることになります。

pp.68-69.

と同時に、(最近の私の勉強不足もあり…)フランスやドイツの制度設計と日本の制度設計の違いが、やや分かりにくく、「フランスやドイツのように、他の保険加入者と同じように医療を受ける「権利」を保証するのではなく、権利のない人を生活保護によって「助けてあげる」という仕組みになっているのです。」(p.70)のニュアンスをもう少し詳しく学んでいきたいと思います。

本書全体を通して、データの論証の強さを感じます。
一般的な税や自己責任論のイメージを覆すようにして、データを示している感じがして、わかりやすいです。
生活保護の不正受給が0.4%程度に過ぎない話(p.87.)などは一例ですが、本書で一番強く語られているのは、日本が税収の少ない国であるという点でした。

ムダが多すぎるので財政赤字がふくらんでいく、国はまず財政のムダをなくすべきだ、これまで多くの日本人がこのように考えてきました。しかし、僕たちはすでにその見方がまちがっていることを知りました。少なくとも歴史的に見て日本は大きな政府ではありませんでした。また、財政赤字が産まれる原因が、支出が多すぎるからではなく、税収が少なすぎたからだったことも皆さんは学びました。

p.156.

この点の含意については、私自身、理解しきれていない点が多く、今後も考えていきたい点だと感じています。

そして、本書の一番の面白さは、財政を切り口にしながら、日本社会の根っこの問題、つまり日本社会が持つ特性について、論じている点です。

その論点としては、個人的には、「租税への強い反発」と「納税者のチェック機能の欠如」の二点にあるように感じました。

ですが、みなさんにぜひ考えてほしいことがあります。本当の問題は、感覚的には受益のとぼしさに不満を感じながらも、納税者のほとんどが税制改革の中身を知ることがないまま、増税の決定が行われた点にある、ということです。消費税の増税のなかで、いったいいくらが自分たちの生活のために使われるのか、いったいいくらが借金の返済に使われるのか、この点をきちんとチェックしていた納税者は、ほとんどいなかったというのが実態でした。・・・(中略:斉藤)・・・税の使い道もよくわからず、なんとなく重税感をいだいて政府の提案に抵抗をするとするならば、これは民主主義が機能しなくなっていることを意味しています。これは僕たちの社会、これからの社会にとって深刻な問題です。

pp.172-173.

財政赤字の根っこにある税収の不足、租税への強い反発は、人間や政府への不信感、所得の減少と所得の拡大、そして歴史的に作られてきた財政の特質などが複雑にからみあって、生みだされたものです。だから、僕の専門である財政社会学では、財政の危機を社会の危機だと考えるのです。

p.180.

その他、「経済的に効率的な方法が、政治的に、あるいは社会的に効率的だとはかぎらない」として、所得制限に反対をする著者の主張は、他の著作から見ても一貫しているように思いました。

勉強になりました。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

English

コメントを残す

*

CAPTCHA