目次は章数が20を超えるので省略します。
物事を抽象度を高めて考えることの強みや、抽象的な次元での思考を避けることのデメリットを分かりやすい例となどで説明した本です。マンガなどもあり、文章のタッチもライトです。もう少し事例も含め詰まっていても良い感じもしなくはないですが、これくらいが読みやすいのだろうとも感じました。
私なりに理解すれば、本書で一番重視されているのは、一件はなれた別々の物事のように見えることを、グルーピングして分析したり、その共通性に注目して、応用したりする発想が、本書が述べる「抽象化思考」ということになるのかと思います。
例えばグルーピングして理解できれば、その中にパターンや法則性なども見いだせることができる場合があり、別個に見えた物事を効率よく考えることができる。
抽象化の最大のメリットとは何でしょうか?
p.33.
それは、複数のものを共通のものを共通の特徴を以てグルーピングして「同じ」とみなすことで、一つの事象における学びを他の場面でも適用することが可能になることです。つまり「一を聞いて十を知る」(実際には,十どころか百万でも可能)です。
抽象かとは複数の事象の間に法則性を見つける「パターン認識」の能力ともいえます。身の回りのものにパターンを見つけ、それに名前を付け、法則として複数場面に活用する。これが抽象化による人間の知能のすごさといってよいでしょう。具体レベルの個別事象を、一つ一つバラバラに見ていては無限の時間がかかるばかりか、一切の応用が利きません。一般に「法則」とは、多数の者に一律の公式が適用でき、それによって圧倒的に効率的に考えることを可能にするものです。
p.33.
また、類似性に注目したアナロジー的な思考を使えれば、一件離れている物事の中に共通性を見いだせ、生産的・創造的な意味での「パクリ」ができる。ビジネスのアイデアの多くは抽象レベルの真似から生まれる、という話は興味深く感じました。
アナロジーは「抽象レベルのまね」です。具体レベルのまねは単なるパクリでも、抽象レベルでまねすれば「斬新なアイデア」となります。ここで重要になるのが、第5章で述べた「関係性」や「構造」の共通性に着目することです。
p.88.
科学や技術的な発見、あるいはビジネスのアイデアなども多くは抽象レベルのまね(アナロジー)から生まれています。たとえば活版印刷機はブドウ圧搾機から、回転寿司はビールとベルトコンベアから、あるいは生物からヒントを得た工業製品も数多くあります。
身の回りの「一見遠い世界のもの」をいかに抽象レベルで結び付けられるかが、創造的な発想力の根本といえます。
p.89.
この「身の回りの「一見遠い世界のもの」をいかに抽象レベルで結び付けられるか」という話が本書全体の論点を上手くまとめているようにも思いました。
本書後半で、抽象化思考を促すためには、どのようなことをするとよいか、という問いに対して、以下のように述べられています。
どうすれば、こうした抽象化思考をうながすことができるのでしょうか。
p.125.
多種多様な経験を積むことはもちろんですが、本を読んだり映画を見たり、芸術を鑑賞することによって実際には経験したことのないことを疑似体験することで、視野を広げることができます。そうすれば「一見異なるものの共通点を探す」ことができるようになり、やがてそれは無意識の癖のようになっていきます。
これを読んでいると、個人的には、以前に読んだ、広田照幸先生の『学校はなぜ退屈でなぜ大切か』の内容が連想されました。
自分の直接経験だけに頼る「身近さ」には限界があり、経験の質を高める意味でも知識が必要になる、といった話があったように思いますが、知識と経験の関係という意味では、似た論点が含まれているようにも感じました。
本書最後にあった、
「私たちが小学校から何年にもわたって学んできた「二大教科」は国語と数学(算数)です。これらはすなわち、言葉と数、要するに抽象化を学んでいるわけです。」(p.131.)という話のまとめへの繫がり方については、私自身は未消化です。
グルーピングやアナロジーを意識できるような思考を意識させながら、国語や数学や他教科を学び続けた結果として、「一般教養」なるものを学ぶ意味がどれくらい増えるのか。むしろ扱う知識の網羅性という点では範囲が狭まるのではないか(と同時にそれでよいという話になるのではないか)など。色々と想像が広がります。
ここら辺の話は、
白井俊(2020)『OECD Education2030プロジェクトが描く教育の未来:エージェンシー、資質・能力とカリキュラム』ミネルヴァ書房.
H・リン・エリクソン他著:遠藤みゆき他訳(2020)『思考する教室をつくる概念型カリキュラムの理論と実践-不確実な時代を生き抜く力-』北大路書房.
などの話とも関連してきそうな気がします。
ライトな本ですが、現在の教育政策との潜在的な類似点をいくつも感じられる(これこそアナロジー?)面白い本でした。