読書メモ

【本】ヤニス・バルファキス著:関美和訳(2019)『父が娘に語る経済の話。』ダイヤモンド社.

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目次は以下の通りです。

プロローグ 経済学の解説書とは正反対の経済の本
第1章 なぜ、こんなに「格差」があるのか?──答えは1万年以上さかのぼることになる
第2章 市場社会の誕生──いくらで売れるか、それがすべて
第3章 「利益」と「借金」のウエディングマーチ──すべての富が借金から生まれる世界
第4章 「金融業」の黒魔術──こうしてお金は生まれては消える
第5章 世にも奇妙な「労働力」と「マネー」の世界──悪魔が潜むふたつの市場
第6章 恐るべき「機械」の呪い──自動化するほど苦しくなる矛盾
第7章 誰にも管理されない「新しいお金」──収容所のタバコとビットコインのファンタジー
第8章 人は地球の「ウイルス」か?──宿主を破壊する市場のシステム
エピローグ 進む方向を見つける「思考実験」

経済学者で、元ギリシャ財務大臣のヤニス・バルファキスの著書。学術書ではなく、ご自身の子どもに語るように書いたとされるだけあり、読みやすい内容となっています。

また、文学作品や映画、SFの話も大量に用いられており、その点も読みやすさ、想像のしやすさを高めています。社会科学と文学の重なりや可能性を感じてしまいます。

全体を通して、貧富の差ができてしまう原因や、その解決策を模索することに主眼がおかれています。

「なぜ、世界には貧しい人がいる一方で、途方もない金持ちがいるのか」ということも、「なぜ人間は地球を破壊してしまうのか」ということも、すべては経済いまつわることが理由だ。その経済と関係があるのが市場だ。だから、経済とか市場とかいう言葉を聞くたびに、そういう話はいいやと耳をふさいでいては、未来について何も語ることができない。

p.25.

本書で一番のキーワードは余剰です。「農作物の余剰が人類を永遠にかえるような、偉大な制度を生み出し、文字、債務、通過、国家、官僚制、軍隊、宗教、テクノロジー、戦争も余剰から生まれた。」(p.28.)とされます。

経済について語るとはつまり、余剰によって社会に生まれる、債務と通貨と信用と国家の複雑な関係について語ることだ。

pp.33.

結果として、本書の冒頭部分にある、「オーストラリアを侵略したのがイギリス人で、その逆でなかったのはなぜか?」という問いに対する答えも、「ユーラシア大陸の土地と気候が農耕と余剰を生み出し、余剰がその他の様々なものを生み出し、国家の支配者が軍隊を持ち、武器を装備できるようになった。」(p.37.)という地理的、環境的な要因が強調されています。


格差自体は古代からあった一方で、産業革命や資本主義の到来によって、その質が大きく変化したことも中盤で詳しく論じられています。
そこでは、「借金」「銀行」「金融」あたりがキーワードになるような気がします。

産業革命の原動力が石炭ではなく、借金だったことが分かっただろうか。・・・市場社会では、すべての富が借金によって生まれる。過去3世紀のあいだにありえないほど金持ちになった人たちはみな、借金のおかげでそうなった。

p.82.

市場社会は見事な機械や莫大な富を作り出すと同時に、信じられないほどの貧困と山ほどの借金を生み出す。それだけではない。市場社会は人間の欲望を永遠に生み出し続ける。

p.233.

市場社会の到来が、人間を節度のない、欲望に満ちた存在に変えてしまうという点は印象に残ります。
また、銀行が社会を不安定にする側面が強調されています。

国家が安定をもたらすことに成功すればするほど、借金を生み出しやすい安全な環境が生まれ、銀行はますます活発にカネを貸し出すようになる。そしてまたそれが不安定さを引き起こす。

p.106.

銀行が何より嫌うのは厳禁だ。・・・預金者が預金を引き出しに来た時に、すぐに現金に換えられる何かを手元に置いていく必要がある。国債はそれにぴったりだ。・・・だから銀行は国債が大好きなのである。

p.116.

その他、以下の情報なども印象に残りました。
・値段のつかないものや、売り物ではないものは価値がないと思われ、逆に値段のつくものは人が欲しがるものだとされるが、献血の例にあるように、そうではない場合が複数あること。(p.49.)
・労働市場は労働力の交換価値だけで動くものではない。経済全体の先行きに対する楽観と悲観に左右されるということ。つまり、だから一律に賃金を下げても雇用は増えないし、逆に失業が増える可能性もあるということ。(p.129.)
・硬貨が生まれた最初のころ、少なくともメソポタミアでは、農民がどれだけ支払いを受けられるかを記録するために実際にはありもしないか仮想の硬貨の量を書き入れていた。・・・つまり仮想通過みたいなものだったという話(p.199.)。
・国家に紐づかないビットコインのような仮想通貨の最大の弱点は、危機が起きたときにマネーの流通量を調整できないことにあること。(p.119.)

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