新科目「公共」についての授業アイデアが豊富に紹介されています。
一番印象に残るのは、授業開発者の教員の皆さんが、教材研究をまず深めてから、指導要領を分析・解釈し、単元開発をしている点です。教材研究の過程では、各自が読み込んだ書籍が様々に紹介されています。教材研究のプロセスを知るうえでもよい気がします。
第一段階は、筆者の問題意識から始まり、教材研究の過程でつかんだ「つかませたいこと・気づかせたいこと、考えさせたいこと」を、指導要領との関連を踏まえ単元の要点としてまとめていきます。さらに詳しく学びたい方のために、書籍の紹介を設けました。第二段階では、まず単元構想を示し、授業計画と授業展開例を示しました。以上の校正を取ることで、教材研究の道筋が見え先生方それぞれの教材研究の際に参考になるのでは、と考えました。
p.3.
このように「教材研究」のプロセスに力点が置かれているのが本書の特徴です。
「見方・考え方」を生かした授業設計、のような話は、コンテンツそのものの吟味とは異なる話なのだなと、本書を読んでいると実感します。
教材研究を重視している結果として、指導要領の文章に対しても、批判的な解釈や捉え方が時々見られます。
「自立した市民」や「アイデンティティ」の捉え方、「領土ナショナリズム」を超える方法、平和主義の議論で「敵が攻めてきたらどうするか」という疑問にどう答えるか、などがその一例かもしれません。先の教材研究が効いてきているように思えます。
その上で、教科書に対しても吟味が加えられています。教科書を読むにしても、教科書記載の問いや課題が単元の本質的な問いにつながっているかどうかであったり(p.127.)、内容選択の適切性などは、絶えず吟味され直しています。
指導要領の狙いは、授業者が設定する主題の学習にともなって各事項の学習の順序を創意工夫することにある。授業者は、指導要領の狙いを正しく読み取り、教科書の配列から自由になるべきであろう。
p.137.
この言葉に関係する通り、全体的に授業者自身の内容の精選が強く意識されているように感じました。その背景には、公共が2単位での実施であり、なおかつ本書が一年間全体の授業計画を示そうとしている点にあります。
本書は、学習指導要領で示された項目を組み込んだ年間授業プランを立て編集したが、あらためて2単位はいかにも少ないと感じる。4単位はほしいところである。「現代社会」が4単位でスタートした時は授業時間に余裕があったが、2単位に減ってからは時間に追われ「詰め込み」になる傾向があった。
p.172.
したがって、「主体的・対話的で深い学び」を追求し、主権者としての資質を養う授業を実現するには、今まで以上に「内容」の精選が必要となる。一年間の少ない授業時間の中で、何をこそ生徒に伝え、気づかせ、また生徒と共に考えたいかを押さえたうえで、年間授業プランを立てることが大事だろう。本書の「筆者の問題意識」から始まる「教材研究の第一段階」は、「内容」を正戦していく過程を表している。ここで「つかませたいこと・気づかせたいこと・考えさせたいこと」を整理することで、「内容」の精選が可能となるだろう。
教材研究を地道に積み重ねる正統派的なカリキュラムマネジメントの視点を感じたようにも思います。また、「C持続可能な地域づくりと私たち」に関しては、総合的な探究の時間や他教科との連携を視野に入れている点(p.173.)も印象的でした。
刺激を頂きました。