読書メモ

【本】松元雅和(2013)『平和主義とは何か―政治哲学で考える戦争と平和―』中公新書.

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目次は以下の通りです。

はじめに
第1章 愛する人が襲われたら―平和主義の輪郭
第2章 戦争の殺人は許されるか―義務論との対話
第3章 戦争はコストに見合うか―帰結主義との対話
第4章 正しい戦争はありうるか―正戦論との対話
第5章 平和主義は非現実的か―現実主義との対話
第6章 救命の武力行使は正当か―人道介入主義との対話
終章 結論と展望

「平和主義」の概念について、政治哲学の観点から考察する本です。

日本国憲法にもある馴染みの「平和主義」の言葉ですが、私たちはその言葉の意味を非常に狭く、精査せず捉えているのではないか。そんなことを考えさせられます。

本書では、最初に「絶対的平和主義」「平和優先主義」の二つが提示されていますが、他にも平和主義を考える上での複数の補助線や類型的視点が示されています。

わが国の場合、どちらかと言えば、これまでトルストイ方の平和主義の方が有名だったのではないだろうか。そこで、さしあたり重要なことは、平和主義の思想や実践には、ラッセル型のあり方も存在すると認識することである。逆に言えば、平和主義は従来必ずしもそう呼ばれてこなかった、さらに多くの立場を包含しうるということだ。

p.32.

このように述べている通り、日本で言われる平和主義が絶対的平和主義であることを示唆し、それ以外の思想もあることを述べています。

本書を読んでいて思ったことを二点ほどメモしておきます。

一点目

目次一覧を見ればわかると思いますが、各章の問いが読者に迫るようなものになっているということです。これは著者的に言えば、直感的に躊躇してしまうような問いを並べているとも言えるように思います。結果として、義務論と帰結主義の関係であったり、現実主義者が現在の主流となっていることであったり、著者がその考えに挑戦しようとしていることが理解しやすい構成になっています。そして、同時に、それらの直感だけでは解決できない問題を、哲学的に考える意義がよく感じられます。

人道的介入主義の言い分を精査するということは、私たち自身の直観に挑戦するということだ。しかしそれが、古典古代以来の哲学の役割だったのではないだろうか。直観を棚上げすることは、現実に対する淡白で冷淡な態度とみられるかもしれない。しかし哲学とは本来、善かれ悪しかれ、こうして議論を――時に常識的反発を招きながらも――進むところまで進めてみることなのだ。とはいえ、政治哲学者が現実に無関心であってよいわけではない。むしろ、いったんはその詳細に分け入られねばならない。とりわけ、人道的危機のような非理想状態の問題に取り組む場合、現実を無視して思弁に耽ることは、私見では政治哲学の適切な姿ではない。

p.206.

この「私たち自身の直観に挑戦する」という表現、個人的には特に好きになりました。

二点目。

先ほどの人道的介入の話にもありますが、一見すると選びづらかったり、Noと言いづらい論点に対して、他の選択肢を用意し足り、相対化する工夫が多く見られた気がします。

「〈善行原理〉の対象は、何も国内・民族紛争の場合に限られない。」(p.195.)「はじめにいえることは、人権侵害を阻止するために、戦争を開始する必要は必ずしもない ということである。」(p.202.)などはその例と言えると思います。

一見すると戦争する以外に選択肢がないように思える場面で、それ以外の方法を模索する。そういった発想の重要性を感じました。

そのことは、著者が最後に主張する「「民主的平和主義」」の考え方と繋がっていきます。

その際のキーポイントは、「国内的な変革が国際的な協調に繋がる」という平和優先主義者のアイデアにある。戦争状態とは、何らかの国内的な原因が生み出す症状の一種であり、原因の除去とともに自然と収まるものだ。加えて、国内条件を変革しうる可能性は、国際条件を変革しうる可能性よりもはるかに高い。私たちは、たとえ必ずしも十分な民主制度を備えていなくても、国内政治に向けて発言し、討論し、批判し、賛成し、投票することができる。これらの一つひとつが、国際的な平和を達成するための一歩だとしたらどうだろうか。 平和主義の思想や実践は、はるかに身近で実現可能なものに見えてくるのではないか。筆者はこうした変革可能性を備えた平和主義を、「民主的平和主義」と呼びたい。

pp.210-211.

「国内的な変革が国際的な協調に繋がる」という発想を受け入れるためには、国内外の論点が無数に繋がっていることを自覚する想像力や、物事を相対化したうえで関連付ける力が必要なのだとは感じます。

そういった力の必要性を感じると共に、著者の主張にも共感した一冊となりました。

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