読書メモ

【本】奈須正裕編著(2021)『「少ない時数で豊かに学ぶ」授業のつくり方—脱「カリキュラム・オーバーロード」への処方箋—』ぎょうせい.

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目次は以下の通りです。

[理論編]
第1章 カリキュラム・オーバーロードをめぐる国際的な動向
第2章 我が国の教育政策とカリキュラム・オーバーロード
第3章 資質・能力を基盤とした教育からみたカリキュラム・オーバーロード克服の可能性
[ソリューション編]
第4章 コンピテンシー・ベイスを原理としたカリキュラムのスリム化
第5章 「美意識」がよりよく育まれるカリキュラムモデルの創出
第6章 学びの自覚化とカリキュラムの圧縮の可能性
第7章 「SDGs の達成をめざす学習」による教育内容の統合
第8章 「見方・考え方」を大切にした算数・数学の授業づくりとカリキュラム開発
第9章 中核概念による構造化と社会科のカリキュラム開発・授業づくり
第10章 英語科におけるカリキュラム・オーバーロードの構造・現状・方策
第11章 ICT の利活用による学習の効率化
第12章 個別最適な学びと学習環境整備

カリキュラムで扱うべき内容が多くなりすぎると、結果として、薄く広く・・になりすぎて、教育の質も低くなる。カリキュラム・オーバーロード(過剰負担)をキーワードにして、本書は構成されています。

見方考え方やキーコンピテンシーの考え方を含め、現在の教育改革の動向を「カリキュラム・オーバーロード」の視点から捉えなおして理解することができます。言われてみると確かにと感じる点は多くありました。

本書後半では、カリキュラムオーバーロードを解決する方法として色々と紹介がなされています。
また、様々な教科の事例も出てくるので、それらの多様性からも気づきが多いです。

いくつか印象に残ったことをメモ。

一点目

学問領域や教科領域などで重要と思われる概念や考え方を中心に内容を構成・整理し、優先度の低い内容は必要に応じて切り落とす発想も見られます。見方考え方の議論はこの路線で捉えられるように思います。

資質・能力を基盤とした教育は、この手順というか優先順位を逆にすることを志向するのであり、そこにイグザンプルという発想が生まれてくる。イグザンプルで ある以上、「見方・考え方」との関係において近似したしか果たしないものが複数ある場合、そのすべてを教える必要はない。・・・(中略:斉藤)・・・これにより内容の精選が可能となり、オーバー ロードの解消へと一歩近づく。もっとも、その結果として、個々の領域固有知識のレベルで見れば「そんなことも知らないのか」といった事態が生じる恐れはある。しかし、 情報環境の進歩と普及により、領域固有知識自体はいつでも、またどこからでも容易に手に入れられる。 もちろん、適格な検索を効率よく行い、さらに手に入れた知識の意味するところや 位置付け、活用の仕方などに関する推論を高い確度で行う上で、「見方・考え方」の 感得は必須の要件となる。

p.46.

これに関連して、教科書内で別々に提示されていても、同じ概念を関連付けて教える方が効果的であるという話が、数学の文脈で提示されていました。

学習指導要領では「割合として見る」ことに関する内容が別々の指導内容として登場してくるが、それらはどれも密接に関連しており、これらをそれぞれ独立したものとして扱うと学びの効果は薄れてしまい, そもそも「割合として見る」という見方・考え方の成長は期待できない。これらの内容をどのように関連付けながら指導していけばよいかを検討することが必要である。 同学年においてもどの教材単元が関連しているのかを確認し、それらをいかにつなげていけばよいのかを考えながらカリキュラムを描くことが必要である。・・・(中略:斉藤)・・・そこで,「割合として見る」という大きなテーマの下に,これらの内容を関連付けてカリキュラムをリデザインすることが期待されているのである。・・・(中略:斉藤)・・・子供は内容の関連を意識しながら学習に取り組むようになり、先述の数学的活動と同様に学びを加速化させていくことになる。

pp.125-126.

二点目

教科横断的な学習に大きな可能性が見出されています。

「学びの文脈をオーセンティックにしていくと,内容的に複数の教科等を横断する 学びになることが少なくない。」(pp.52-53.)という指摘もあります。

また、何と言っても、福岡大学付属福岡小学校の事例のインパクトがすごいです。同校ではカリキュラムのスリム化を取り組んでいるのですが、合計で733時間の削減ができたとされます。その方法のキーワードとして「テーマ学習」「リレーション学習」「フォーカス学習」などが挙げられています。

いずれの場合も、教科内での内容の精選や関連付けをし、教科間での連携や統合を目指している点が特徴のように感じました。例えば、「社会科との内容の統合を図った言語化234時間」(p.71.)にも挙げられるように、教科統合による時間短縮が一つのカギになっているようです。

また、上尾市立東中学校の事例でも、総合学習の枠組みをうまく活用することで、様々な「○○教育」を関連付けて教えられる可能性を改めて感じました。

三点目

個別最適な学びの文脈の中から、単元内自由進度学習について紹介がなされています。
教科の学び方を個別最適化していくことの意味を改めて考えさせられます。

『社会科ワークショップー自立した学び手を育てる教え方・学び方-』を読んだ時も感じた気がしますが、授業内での生徒個々人の活動の自由度を高めていった先に、カリキュラムの網羅主義を克服するヒントが一つあるようにも感じます。

ただ、本書でも触れられていますが、その学習全体をデザインする教師の広い意味での学習環境の設計力と、伴走力というか、そういったものが求められるんだろうと。ほかにも色々と関連する教育観が連想されますが、ここら辺の分野については改めてどこかで学びたいと感じました。

以上です。

本書全体を通して、個人的には、戦前戦後の日米のコアカリキュラムと似たような発想を垣間見たような気がする瞬間もありました。
本書でも強調されている通り「効率的」という言葉を毛嫌いせずに、現実的な質と量の問題と向き合うカリキュラムの視点が大切なのだと感じました。

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