目次は以下の通りです。
第1章 身近な在日外国人(国籍を超えて;外国人の街;多民族化への潮流)
第2章 異国に刻む歴史(韓国・朝鮮人の軌跡;他郷に根を張る華僑;ニューカマーの増加)
第3章 狭間に生きる人々(日系ブラジル人少年殺人事件;過酷な労働;奴隷制のごとき研修・技能実習制度;オーバーステイの慟哭;命を懸ける難民の道;DVに苦しむ女性たち;地方参政権は住民としての権利;テロ防止の名のもとに;管理体制の強化)
第4章 教育の現場にて(民族の心を育む外国人学校;多民族の子が机を並べる国際学校;日系人の子が通う学校;公立学校のなかの民族学級)
第5章 多民族多文化共生に向けて(国際条約の精神;移民国家アメリカ;ヨーロッパの二面政策;オーストラリアの再生;日本に必要なグランドデザイン;多文化主義国家・カナダ)
本書では、在日外国人に関わる様々な論点が、(ある意味)概説的でエピソード多めに色々と紹介・詳述されています。個人的には、助かる点が多かったです。
戦前戦後の歴史的な経緯、阪神教育闘争を象徴とする朝鮮人学校関係者の苦難の歴史、朝鮮籍と韓国籍の差別化の問題やその一本化までのプロセスをはじめ、在日朝鮮人の現在に至る経緯が簡易に要点をまとめて説明されています。
また、日本に住む華僑・華人の大陸系と台湾系をめぐる複雑な構図や背景、中南米系移民の登場のプロセスも詳述されており、在日朝鮮人の方々と華僑の方々の差異なども含めて考えさせられました。
本書が扱う論点は多く、例えば、
国内における在日外国人の方々が多く住む地域(古くからも含め)の様子であったり、
外国人研修・技能実習生の深刻な問題点であったり、
外国人学校の教育助成金をはじめとした、外国人学校への制度的差別であったり、
民族学級の様子やその運営上の苦労であったり、
離婚やDV被害にあう外国人女性の状況であったり、
など、様々な論点が書かれており、勉強になりました。
また、個人的には、本書を読んで、日本の制度的な問題点を他国や国際動向と比較して論じている場面が、日本の現状を俯瞰的に捉える意味でも、強く印象に残りました。
日本は依然としてインドシナ難民以外の難民の受け入れには消極的である。2009年に難民申請した1388人のうち、認められたのはわずか30人にすぎず、年間2万人以上受け入れる米国や、一万人程度の欧州諸国と比べて桁違いに少ない。数の問題だけではない。難民はすべてを失って国外に逃れるため、生活の術が著しく欠如している。そのためたとえば、英国では政府が家賃や養育手当を負担し、オランダやデンマーク、スウェーデンでは地方自治体単位で難民の生活を守りながら融和政策を進めている。だが日本では原則的に難民申請中の就労は禁じられており、唯一の公的支援である外務省の保護費(一日1500円程度の生活費と月4万円の住居費)だけで生活しなければならない。難民認定においても、生活保障の面においても極度に低いレベルに留まっている。
pp.97-98 .
カナダでは、移民が生活上の不利益から逃れるためにカナダ国籍を求めたくなるような状況を残してはならないという発想に立つ。もちろんカナダを愛して国籍を求める人には緩やかな条件で許可を与えるが、国籍変更をしなくても永住権さえ取得すれば市民権とほぼ同等の権利を保障する。
p.208 .
国籍を超えて、保障されるべき基本的人権とは何か。
そもそも、国籍とは、国民とはなにか。
さらにこの文脈における「シティズンシップ」とは何を意味しどう向き合うべきか。
考えさせられます。