目次は以下の通りです。
第1章 トンガからの留学生ーノフォムリ、ホポイ、そしてラトゥ
第2章 1989年と2015年のトライ
第3章 14歳のパイオニア
第4章 なぜ、桜のジャージなのか
第5章 外国人初の日本代表キャプテン
第6章 楕円球がつくった出会い
第7章 日本代表を憧れのチームに
ラグビーに詳しくない私も、最初にワールドカップの日本代表のメンバーを見た時に、外国ルーツと思われる選手が多くいることに一瞬の戸惑いを覚えたのも事実でした。
同時に、ラグビーが、出生地主義ではなく居住地主義をとることについては、理解はできたのですが、そのスポーツに関わる当事者たちがどのように感じ、生活しているのかという点について、実感が持てたわけではありませんでした。
外国のルーツを持ちながら日本でスポーツを始める人や、それを支援し応援する人たちが、そのような歴史を歩み、今にいるのか。
その途上でどのような葛藤や苦労を経験しているのか。
さらには、選手自身の目線からして、複数の選択肢(たとえば、トンガ、日本、ニュージーランド、韓国などなど)からどれかの国の代表権を選択するとは、どのような判断を迫られる場面といえるのか。
本書では、それにかかわるインタビュー記録や本人のエピソードが豊富に語られており、とても興味深かった。
特に印象に残るのは、高校ラグビーに先陣を切って入ってきたニュージーランドのニールソンであったり、トンガのノフォムリ、ホポイの話などでした。
彼らが心無い差別にあったり苦労する場面や、スポーツのルール自体が(多国籍を受け入れるという意味で)変化していくプロセスなどが、垣間見れた気がします。
ともすると、スポーツにおける留学生受け入れを「勝利至上主義」の語と繋げて批判する声も一部にはある気がしますが、
でも関係者を取り巻く実態は、それだけでは言い切れない多様さや、苦労や葛藤があるのだということが読んでいて感じられました。
朝鮮人学校の花園出場までの話なども入っており、日本社会における民族・エスニシティの問題も考えさせられます。
あと、選手自身のアイデンティティや日本代表への意識の多様性を示すうえで、以下の文章が印象に残りました。引用しておきたいと思います。
トンガ人の両親を持ち、日本に生まれ、ニュージーランドに5年間暮らしたクルーガーは「2030年のW杯をターゲットにしたい」と語る。トンガ、日本、ニュージーランドの代表資格を持つがどう考えているのだろう。
pp.267- 268.
「大東、パナソニック、そして日本代表・・・。たくさんのトンガの選手が通った道ですから日本代表以外は考えていないです。僕は日本で生まれました。ホームは、日本なんですよ。だから自然ですよね。引退後も日本で暮らすつもりですから。そのあたりはノフォリムさんやお父さんたちの世代とは少し感覚が違うかもしれません。」
スポーツ選手のエピソードを通して、日本の多文化共生やアイデンティティ、エスニシティ等々を考えられる本になっていると思います。
勉強になりました。