読書メモ

【本】佐藤正寿監修・宗實直樹編著(2022)『社会科教材の追究』東洋館出版社.

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目次は以下の通りです。

第1章 社会科の「教材」とは
第2章 様々な「教材」
第3章 「教材化」の具体
第4章 「教材化」の道

非常に具体的に社会科教材の理論と具体が説明されています。

本書の「おわりに」に、本書が出版される背景となった「社会科の「教材」を追究する会」の話に言及されているのですが、

その会の趣旨の一部として以下のように書かれています。

本会は、社会科の本質「教材」にあらわれるという考えのもと、「教材」について追究していくことを主としている会である。具体的には、「教材化」の局面に焦点をあてる。「教材の理由(なぜ?)」「教材化の源(どこから?)」「教材化の方法(どのように?)」を中心に実践研究を深めていく。・・・(中略:斉藤)・・・社会科の「教材」をどのようにしていくかを中心に議論し、まとめていく。その際、経験や感覚のみで「教材化」を行うのではなく、学術的な根拠や客観性も踏まえながら「教材化」を行う方法について説明していく。「教材をどうするか」という「教材活用」に即した実践書籍は多く存在するが、そもそもその「教材」がどのような考えでどのように具体化されていくかを示した実践書籍はそう多く存在しないと捉えている。本会員を含め、多くの教員の「教材化」のヒントとなり、教材設計する力の向上になればという願いを込めて実践研究に取り組みたい。

p.190.

この文章が本書そのものを象徴しているように思いました。

前半の1・2章では、社会科教材のあり方について様々な文献やご自身の事例も含めて紹介がなされています。

藤岡信勝の「上からの道」「下からの道」の話や、「教材化とは、「見えないもの」をみえるようにしていく教師の営みのことです」(pp.27-28.)をはじめ、一般化された形でもわかりやすい説明になっていると思いました。

一方で、本書の後半3・4章では、教材の具体や方法について、エピソードと経験談を交えて、詳細に描かれています。

とりわけ、「第3章 教材化の具体」で、教師が教材に出会い、教材化するまでのプロセスが描かれています。例えば、「教材化のきっかけ」➡「素材発掘」➡「取材」➡「教材化」➡「実際の授業」➡「その後」と言った感じの流れが詳述されているのです。

先に挙げた会の趣旨とも重なりますが、こういう記録は貴重だと感じました。

また、ともするとインターネットでの情報収集が多いのかと思いきや、本書で強調されているのは、「フィールドワーク」や「現地取材」です。「直接取材のアポイントメント」の具体例や、現地に行けない時の調査方法、新聞、テレビ番組、市の総合計画の調査など、バランスよく書かれています。

また、教科書に対しても、教科書の場所に行ってみたり、教科書内容を自分で取材し直すことを勧めており、教科書との距離感の取り方も個人的にはとても共感するものでした。

やや繰り返しになりますが、一つ一つの教材研究の仕方がエピソード豊かです。個人的には、フィールドワークの際にお土産を持参しておこうとか(p.145.)、旅行でフィールドワークをする際に、家族と共に動く様子や「地域を知るために食べる」やお土産を買うことの重要性を熱弁している(pp.138-134)あたりなどは、読んでいて微笑ましく、元気づけられる内容となっています。同時にこの本の性格を象徴している感じもします。

社会科教師の執筆者の皆さんの読書熱や、社会科教育史・研究に対する熱い想いも感じられて、読んでいてとても楽しかったです。

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