読書メモ

【本】浅野大介(2021)『教育DXで「未来の教室」をつくろうーGIGAスクール構想で「学校」は生まれ変われるのか』学陽書房.

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目次は以下の通りです。

序章 “1人1台端末”GIGAスクール構想の上に、どんな「未来の教室」を創るか
第1章 なぜいま、日本の教育は変わる必要があるのかー「未来の創り手」たちの「当事者意識」を削らず、磨くために
第2章 「未来の教室」の基本構造はこうなるー「スマホ的な構造」をした「誰もがそれぞれ満足できる」学校
第3章 「学びの自律化・個別最適化」がはじまるーヒントは「パーソナルトレーニング」と「当事者研究」にある
第4章 「学びの探究化・STEAM化」がワクワクを生むー「ホンモノの課題」から始まる「いいシゴトをする」学びへ
第5章 サード・プレイスという「未来の教室」-「夢中になる」を正当化してくれる、「本当の居場所」が必要だ
終章 2025年、どんな「未来の教室」を創りますか?-「高信頼性組織」であり、「いいとこ取りの組み合わせ」が可能な場に

GIGAスクール構想や教育DX戦略について、主に経済産業省の著者の立場から論じられています。
内容は賛否両論を呼びそうな点が多いのですが、著者が具体的に提案する論点も多岐に及んでおり、考えさせられる部分もありました。

本書での主張の骨格部分のひとつが、学校教育にEdTechを導入することか思います。

そんな学習環境を全国あまねくどの地方にも、どんな家庭環境の子にも届けるための必須アイテムがEdTechです。これはEducation(教育)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた造語で、デジタルハリウッド大学大学院の佐藤昌宏教授によれば「デジタル技術を活用して教育に大きな変革をもたらすサービスや技法、そこから生まれる教育イノベーション全体を指すもの」です。             

p.18.

教育DXで生まれる「未来の教室」では、世の中にあふれる優れたEdTech教材、指導者・支援者、時間や場所も融通無碍に組み合わせて学ぶことが可能になります。たとえば教育Youtuberの葉一さんの無料講義動画、予備校のカリスマ講師が語るスタディサプリなどの講義動画をどんどん生徒が使い、先生も生徒もLMS(学習管理システム)上に「個別学習計画と学習ログ」や単元コードによって単元コードによって学習ログを整理して学習到達度を確認しながら学び、評価する、そのような学びが容易になります。            

p.20 .

こういったEdTechの導入などが、教育格差を生み出すかという点について、著者は、その逆だという立場をとっています。

よくいわれる「EdTechの導入は学力格差を拡大させる」というのは大きな誤解で、これから本章でご紹介する実証事業を見る限り、EdTechは「いまの学校の授業もままでは広がる一方の学力格差を縮めるための道具」として活用するのが正しいはずなのです。例えば、MOOCs(動画学習コンテンツ)を使えば、「わかるまで」何度でも聞いて理解できます。教育系Youtuberの葉一さんのコンテンツが子どもたちに大人気なのは道理ですし、この章でご紹介するAI型教材は、1人ひとりの誤答の原因を指摘し、それに対応した演習問題を適切に出してくれるので、的を射た学習ができます。わからない単語や概念に出会ったらGoogleなどの検索エンジンで調べれば前に進むことができます。何より、学習ログが残るため、学習者自身も指導者も時間を有効に活用した対策が打ちやすくなります。さらに、子ども全員が一人ひとりのWISC検査などの「認知特性」のデータや家庭環境に関する情報も学習支援のために活用できるなら、「個別学習計画」を組成して、さらに綿密な対応が可能になるはずです。             

pp.89-90.

個別の子どものデータを管理し分析し、優れた教材を社会的に共有していこうという考えが随所に見られます。著者いわく、「「他人の褌で堂々と相撲をとる」という精神も重要です」(p.220-221.)とのことです。

いくつか印象に残った点をメモしておきます。


一点目
教科学習の立ち位置についてです。
教科学習を狭義に捉えれば、それは「筋トレや基礎練習」だというスタンスが採られています。そして、そのような筋トレはAI型教材を主導に実施してはどうかと提案されています。

  教科書を一通り理解する意味での「教科学習」はスポーツでいえば「筋トレや基礎練習」にあたります。単調でつまらないものですが、しかし、自分の課題に対応した個人メニューをきちんとこなさないとスポーツ選手として成長が止まるように、教科学習は学術の「足腰をつくる」意味を持ちます。一方で「探究」は「対外試合・部内マッチ」みたいなもので、ここで高いパフォーマンスを見せることこそが、「学びの目的」です。・・・(中略:斉藤)・・・ぜひ、「筋トレや基礎練習」にあたる「教科学習」と「対外試合・部内マッチ」にあたる「探究学習」を両立させたいのですが、「時間は有限」です。「行ったり戻ったり」して深い探究を進めるには、各教科で最低限身につけてほしい基礎知識は「効率よく吸収する」ことが必要です。ここでAI型教材やMOOCsといったEdTechが威力を発揮します。同時にEdTechは探求学習にも深い奥行きを与えます。

pp.46-47.

本書では、様々な実践が紹介されています。その中には、実際に、EdTechを使って、事前学習を生徒が行い、習熟度別のグループを作って、共同学習をするような例も見られます。

二点目
総合学習・教科横断型の学習を重視する論理の元で、STEAMの価値が強調されています。STEAMについては「S(科学)T(技術)E(エンジニアリング)M(数学)とA(Arts:人文社会・芸術・デザイン)を足し合わせた、学際性(教科横断)を重視して探求型・プロジェクト型で進める学習」としたうえで、以下のように述べられています。

つまり、社会課題や生活課題、科学技術などの「ホンモノの課題」に向き合う当事者として、また表現やパフォーマンスの当事者として思考・判断・表現を繰り返し、縦割りの知識・技能を学際的に手繰り寄せて「一つのシゴト」に仕上げていく探究学習です。    

pp.128-129.

このSTEAMの話と関連して、本書では、総合や教科横断的な学習の実践例や代表的な事例についても色々と紹介されています。
例えば、伊那小学校の総合と教科(p.38.)や、イエナプランのブロックアワーとワールドオリエン―ションの関係、(p.42.)など。そのほか、STEAMに関しても、体育に数学と理科を掛け合わせるSTEAMの例(p.156)や、料理と科学を掛け合わせるSTEAMの事例(p.187-188.)など。

三点目
授業スタイルの変化の話だけでなく、学校教育を取り巻く様々な制度的前提についても、物申しています。
国内留学やダブルディグリーのような、学校アライアンスとしての「みらいハイスクール」の構想(p.140.)であったり、「通信制・単位制」を日本の高校の新しいスタンダードにしてはどうかという提案(p.211.)であったり、学級サイズを「20人や15人という「マネジメント可能なサイズ」を追求すべき」(p.215. )という提案であったり、学校教育法施行規則の「標準授業時間数」を廃止し、学習マネジメントは生徒の学習ログを確認して、学習指導要領が求める資質・能力の伸びを評価して、丁寧に行うべき(pp.217-219)という主張などが、その一例です。
結果として、「「カネ目の話」をタブーなく勝負する教育政策への転換」が必要だとされています。

教師の役割についてもかなり派手な主張がなされており、賛否両論を呼びそうです。

GIGAスクール時代の今後、広義の録画。再生やEdTechと学習ログの上手な活用によって、「知識伝達」に費やされる先生のシゴトの手間はかなり削れます。一方で、個別に寄り添うには大量の先生が必要になります。全員が「常勤」である必要は全くないにせよ、人件費はかさみますが、それを「未来投資」と思うか否かが、今後の判断の分かれ目となります。               

p.213.

本書の内容について、正直賛同しにくい点はいくつもあったのですが、読み方によっては、これまで日本でなされてきた実践や思想が「いいとこ取り的に」垣間見られる場面もあり、その点自体も考えさせられました。
また、授業のあり方を論じる際に、学校や制度設計を関連付けて論じる必要があるという点は、再認識させられました。

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