読書メモ

【本】神代健彦編(2021)『民主主義の育てかたー現代の理論としての戦後教育学―』かるがも出版.

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目次は以下の通りです。

第1部 「公」教育の理論ー分断社会を超える
第1章 「国民の教育権」論ー教育の公共性を編み直す
第2章 「私事の組織化」論ー教師の仕事にとって保護者とは?
第3章 「地域と教育」論ーコミュニティ・スクールは誰のために
第4章 公害教育論ー生存権・環境権からのアプローチ
第5章 青年期教育論ー「大人になること」をめぐる問い)

第2部 価値論の復権ー原理の問いを取り戻す
第6章 発達論ー子どもを主体とした全面発達の追求
第7章 教育的価値論ーよい教育ってどんな教育?
第8章 民主教育論ー身に付けるべき学力として
第9章 障害児教育論ー「子どもに合わせる」教育のなりたち)

やわらかいタッチの文章で、戦後教育学のポイントを現代社会と行き来しながら考えさせてくれる本でした。
「はじめに」で以下のように書かれています。

現在進行形の教育改革のなかで「適応」を競うわたしたちは、むしろだからこそ、それらを問い返すための理論的足場を必要としている。そしてその理論的足場の可能性が、戦後教育学の蓄積にはある。だから、そうした教育の現在を考えるための足場を求めて、いまだ全容を概観することもままならない戦後教育学について、すこしでも見通しをよくすること、そしてそのうえで、「歴史において最良」と言えるような新しい教育学を展望すること――、謙虚なようでいて、いささか尊大にも聞こえるような言い方になってしまいますが、これが本書の「めあて」です。

p.8.


本全体を通して、読みやすい柔らかい文章が印象的です。

いくつか印象に残ったところをメモ。

一つは戦後教育学に接近するアプローチについてです。
戦後教育学の特徴やポイントを示す際に、現代の諸課題と戦後教育学の共通性を挙げるアプローチもあると思うのですが、
むしろ、戦後教育学への批判(とそれへの著者自身の再批判)を交えて論じているところなどは、刺激的だなと思いました。
第7章の「2.理論的な批判に応えるー歴史・なかま・批評ー」などはまさにそれが際立っていました。

その他、自分の研究関心にもかかわりそうなテーマ、論点はたくさんありました。そういう論点を映し出してくれる本書に感謝。

例えば、
教師が抱える「公的公教育制度が内包する矛盾」を認識し、子どもの人権・学習権保障の立場に立つことの重要性を説く、国民教育運動や「国民の教育権」論。(第1章)

民主主義の理想にむけた闘争が、困難・ニーズによって自動的に生じるのではなく、「集団として組織し、管理する能力」を身につけた人々の努力があってはじめて生み出さされるという城丸氏の主張。(第8章)

中内敏夫の学力論を背景とした、教科教育と教科外教育の関連性、学力と人格を一元論的に捉えるべきという見方。(第8章)

戦後の「地域と教育」論の背景にある、「不利」な状況に置かれていた地域の存在。(第3章)

住民自らが、「開発の矛盾を解決する主体の形成」として、あるいは「地域・自治体の主権者としての自覚」を持って、参加・記録・発明していくような教材作りのプロセス。(第4章)

「権利としての障害児教育論」を主張するからこそ、「障害児教育」という固有の領域の必要性を認識し、特別支援教育やインクルーシブ教育への懸念を表明する主張。(第9章)

いずれも、社会科教育、主権者教育、シティズンシップ教育のいずれを考える際にも、念頭に置いておくべき論点だと思います。

もちろん、それぞれが各時代の抱える限界やしがらみを抱えているという点にも慎重になる必要があるとは思いますが、そういう歴史的な是非を問うていくこと自体が大切な試みであるのだろうなと。

戦後教育学について学びなおしたいと、読者を元気づけてくれる本になっている気がします。

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