ブレイディみかこ著『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)を今頃になって読みました。完全に乗り遅れた感は否めませんが。。
https://www.shinchosha.co.jp/book/352681/
社会科学の概念や論点がちりばめられつつ、それでいて読みやすいストーリーは見事。
貧困や社会的排除、セクシュアリティ、ナショナリティ、アイデンティティ、人種・民族問題、などなど。
無数の論点が学校と家庭、地域を取り巻く日常の中に、絡み合いながら散りばめられてます。
多文化社会の中での「ポリティカル・コレクトネス」(政治的・社会的に公正・中立な言葉や表現を使用すること)を重視した関わり合いの仕方について、リアリティを持って理解できる印象です。
職業柄、シティズンシップ教育の記述も確かに興味惹かれましたが、
読んでみると、今の英国社会そのものを描く1つのパーツとして、シティズンシップ教育がサラッと説明されてて、かえって、英国社会におけるシティズンシップ教育の必要性と葛藤をじんわりと語っているように見えました。
ブレイディみかこさんの『子どもたちの階級闘争―ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)をとりあえず買って、積読中です。
https://www.msz.co.jp/book/detail/08603/
個人的には、筆者の夫の存在や描写が良い味出してるなあと思ったりもしました。筆者は社会状況や自分の心理を説明してしまうし、非常に社会科学的で分析的な見解を述べているのですが、むしろ、ぶっきらぼうに発言する夫の言葉の端々に、何とも言えない社会背景や余韻を感じたりもしました。
あと、EU離脱にざわめく英国を舞台にした本書と、現代の日本を取り巻く文脈は違うかもしれませんが、
次の文章には何だかハッと立ち止まって考えさせられてしまいました。
日本の政治にしろ、若い子にとっては似たように見えていないだろうかと。
(サッカーワールドカップのイングランド代表とEU離脱を掛け合わせた記事について、著者と息子が会話をした後の文章です。)
左派らしい記事ではあるが、自分たちの考えを主張するために、自分たちとは違う考えの人々に対して「イングランド代表はお前らのチームじゃないもんね!」みたいな子どもじみたことを言う低みに落ちてしまうのはなぜだろう。こうした態度は、EU離脱投票以降、残留派と離脱派の双方の一部の人々がずっと引きずってきたものだ。
「仲間はずれ」「わざと喧嘩をさせようとしている」という息子の言葉は、今の時代に育つ子どもたちの率直な感想じゃないかと思った。残留派も離脱派も、息子のような年齢の子どもたちからしてみれば、いい大人が互いに頑なになって辱め合い、言い争っているようにしか見えないのではないか。
EU残留派も離脱派も、自分と反対の考えを持つ人々がこの国に存在するということをなかなか許すことができずにいるが、英国には両方の考え方の人たちが生きているのだというファクトを醒めた目で冷静に受け入れ、その現実とともに暮らしているのは実は子どもたちかもしれない。
(p.134.)